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物語に誘い込む比喩

坂田汐見

 読書をしていて、いいえて妙という比喩表現に出会うことは大きな楽しみである。しかし、それは想像力がゆたか過ぎて読者の想像が及ばないようなものでは意味がないし、もちろんありきたりでは面白みがない。そして、その表現が自分の感性にぴったり来るとその物語に引き込まれていく。
 「…椅子の四本の脚はポテトチップスを噛み砕いている時のような、ぱりぱりした音を出してきしむ。」「…私たちが段を踏みしめる度に、階段の上の橙色の電球は、線香花火の火のように細かく震える。」。『蹴りたい背中』を最初に読んだとき、随所にこのような身近な比喩表現があることに驚いた。それは本当に「身近」なのである。文学的とはいえないような、例えば日常、頭の中では想像していそうで、かといって言葉にするのは難しいといったような表現。そして、身近でありながらちょっと意外なもの同士を組み合わせることで読者の想像力をかきたてる。
 例えば冒頭の場面で見ても、実験室のけだるい自分とその反対に錯綜する心の中、同級生を見る視点などが比喩を使ってうまく表現されている。そして作品のキーを握るにな川の描写からにな川が顔を上げた場面での「…前髪が伸びすぎている。醤油を瓶ごと頭にこぼしてしまったかのような重く長すぎる前髪…」。そういえば高校時代にこういう人いた。と思わせ、自分の高校時代と作品とが合わさったような世界にタイムスリップしていく。
 この作品の強みのひとつに作者がほぼ本人にとってリアルタイムのことを描いていることがあると思う。この世代の頃に言葉で表現できなかった「よくあること」や複雑な気持ちをうまく表してくれている。 しかし比喩表現もやりすぎると醒めてしまう。この作品はしつこくなるぎりぎりの線なのかもしれない。

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