クラスや部活、学校に違和感を覚える主人公ハツは、同じように一人でいるにな川に共感を覚え始めている。しかし、ハツとにな川は違った。彼からは、「さびしさ」は見えてこない。
主人公は、グループの中で存在することから自立しようとする。そんな「大人」になる過程で、素直に気持ちを表現できない。
主人公が話し手となるこの作品の形容詞には、「さびしさ」「憎い」などの消極的なイメージをもつ形容詞が多用されている。また、タイトルに使われている「背中」というのも、「背を向ける」という消極的なイメージをもつ。
この作品では、そのイメージを逆手にとって、一口に「好き」とか「惚れる」とかいう言葉では表せない誰かを思う積極的な気持ち(もしかしたら「仲間意識」かもしれない)を「蹴りたい背中」と、消極的な言葉を使って表現する。
素直に気持ちを表現することを恐れる若者の特徴をよく捉えている。
私にも「いためつけたい。蹴りたい。愛しさよりも、もっと強い」"あの気持ち"に覚えがある。複雑に絡み合った「気持ち」を、相手に対して口にできないとき、蹴りたくなるよね、その背中。
扱っている「気持ち」にはさほど共感できないけれども、ひねくれた言葉に隠された「積極的な気持ち」に共感を覚える。また、ていねいに選ばれたひとつひとつの言葉の使い方には、さすが芥川賞と敬服する。
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