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吾輩は猫にケータイなんて云われたくない

谷崎漱一郎

 「おい、おーい。アスカ、居るかーあ」夜更けに帰宅した繁が娘を呼んで居る。  「何よ。今頃」とアスカが不機嫌な顔を出す。飼い猫の吾輩も騒ぎが始まるぞと思って見物する事にする。  「これだよ」と繁が携帯電話(ケータイ)を突き出す。「歩行(あるき)メールしようと思って落としたんだよ、溝(どぶ)に。スイッチを押しても、うんでもすんでもないや」とアスカに手渡す。  機械(メカ)に弱い点では父親譲りの娘も、ケータイだけは別だ。学校から戻れば、食べるか、テレビを見るか、それ以外はケータイを握り締めて居る。習うより慣れろでケータイなら何事にも勘が働く。繁のケータイもアスカが購入してきた。繁は深夜、帰宅する時は予め家に連絡を入れるようにケータイを持たされている。酔って連絡を忘れる度に、家族から文句を云われる。その点、吾輩は「猫にケータイ」なんて云われないし、云われたくもない。何時(いつ)帰宅しても何も云われない。万が一、締め出されても軒下にねぐらを確保してある。

 「水ぽちゃでオシマイの赤マークが出てるよ」 とアスカが差し出すケータイを、繁は覗き込む。小さな四角い赤マークを見つけると、「何で、水に浸かると赤くなるんだ」と娘に尋ねる。「水ぽちゃだから赤なの」と予想通りの答えが返ってくる。  アスカは以前、雨でケータイを濡らして帰って、メールが出来ず、癇癪を起こしてケータイを吾輩に投げつけた事があった。赤マークの事を知ったのは、その時だろう。  「そうか。水ぽちゃだから、あかんのか」と云う繁の表情(かお)が暗くはないのは、暫(しばら)くはケータイから解き放たれたと思ったからに違いない。後は軒下にねぐらを拵(こしら)えさえすれば、吾輩と同等の自由が味わえるのに、そこ迄は気付いて居ない様である。

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