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»第6回テーマ「書評」

『いまを翔けぬけろ(著者:吉沢翠)』

秋野湯

著者はあるとき突然、自分には全く責任もない病気になる。骨髄移植をしないと命を落とす重病だ。
それまで描いていた人生設計図があっけなくも無惨に崩れ落ちてゆくのをどうすることもできず、世の中の理不尽さにもがき苦しみ、そして恨む。しかし異世界での様々な体験を通じることによって、それまでの価値観の撤回、生まれて初めて生への希望と喜びを実感して変化してゆく姿を、詩、エッセイ、日記、写真を組み合わせて踊るように軽やかに、1冊の本の中で謡ってゆく。悲愴なはずの状況なのになぜか甘やか…。不思議な魅力をもった作品なのである。

誰が読んでもわかりやすいのは、「ことば」の使い方がとても正直で素直だからであろう。

自分の中にうごめいている複雑な感情を、的確なことばを用いて表現するのはとても難しい。恐らく、自分の中のしこりのような物体であった「感情」と向き合って、深く深く掘り下げて、時には他人事のように見据えてみたりしながら、その感情が意味する「ことば」を探していったのだろう。

自分の感情に直視できずに「曖昧なことば」「わけのわからない比喩」でごまかしがちな詩が多いなか、著者のことば選びには、その真摯な姿と必死な想いが強く胸に伝わってくる。

でもそれだけに、一般常識とは異なった表現が使われていて違和感を感じる箇所もある。

「幸福を祈る無責任なやさしさ」「死ぬことよりも 闘わなければならないことが 恐ろしかった」「生というとほうもない敵」「現実はいつだって 悲劇のようにはうまくいかない」「いのちに火をつけられるのは 愛、なんかではないのかもしれない」

「えっ…?」と一瞬言葉を失うような内容のことを、ばさりと言い切っている。
これら表現にぶち当たると心臓をナイフで刺されたようにぎゅっとするとともに、このような感情を体験してしまった著者の辛さや苦しみがじりじりと伝わってくる。

とはいえ、いくらつっぱっても隠せない「甘み」。著者が元来持っている「柔らかさ」がこの本を不思議なオブラートで包んでいる。

詩の中には、実に様々な具体的な商品が出てくる。
食べ物、音楽、ファッション。

それらは闘病前も闘病中も闘病後も、変わらないスタイルで登場する。
そしてそれらの商品を並べてみると、容易にこの著者のキャラクターが想像できる。

辛いことがあると嗜好も変わってしまうものかと思っていたが、全編を通して登場する統一されたテイストは、この本に甘みを与えるとともに、死に直面したことがない人々に、ある種の安心感を与えてくれている。 「この病気で命を落とすのかもしれない。でも自分は最後まで女性でありたい。」

そんな気持ちが、本全体にオーラのように溢れて輝いているのだ。

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